今年の大学入学共通テスト初日、英語の筆記試験終了後に「英語難化」というワードがX(旧Twitter)でトレンド入りしたそうです。出題形式(大問数6、設問数39、解答数49)は昨年と変わらずなのに、「難しくなった」と受験生をざわつかせた原因のひとつは、分量つまり英文の総語数が増加したからかもしれません。たしかに、平均点も51.54点(100点満点)と過去最低を更新しています。
今年の総語数(=素材文+設問・選択肢)は昨年からさらに200語ほど増えて約6200語でした。ところで、6200語ってどれくらいの分量で、80分の試験での読む速さはどんなものなのでしょう?
芥川龍之介の小説では「蜜柑」、「蜘蛛の糸」、「杜子春」の英訳版合計語数が約6200語に相当します。読む速さについては、ことばの学校の1倍速程度です。
「蜘蛛の糸」が約11分、「杜子春」が約31分、ラインナップ外の「蜜柑」は「蜘蛛の糸」とほぼ同じ長さなので約10分と仮定して、3作品で約52分です。これは共通テストで読むための作業に費やせる妥当な時間です。
つまり、総語数6200語の英語試験は、上記3作品を1倍速程度で立ち止まらずに英語で理解する、といったイメージになります。日本語ならば1倍速は少し遅めかもしれませんが、「英語で」となると余裕はなさそうですね。やはり、何らかの対策が必要になります。
昨年のブログで、次から次へと題材が変わる(今年は全10トピック)共通テストの対策として「返り読みをしない」、「ことばを正しくイメージする」という2つの学習法をご紹介しました。特に、2つ目の「イメージ化」の大切さは今年の問題分析でも痛感しました。
第3問Bの素材文より。
He nodded and explained that humans have created so much artificial light that hardly anything is visible in our city’s night life.
ラスベガスほどではなくても、看板やビルの明かりなどの人工的な光に照らされて星の輝きがかすむ夜空をこの1文からイメージすることが、上記英文に対応した設問番号23を正解する最短の方法です。
so-thatの構文や否定副詞hardlyなど文法知識も必要ではありますが、逐語訳にこだわるのではなく、全体的な内容を画像に落とし込むように日頃から意識することで、情報量に圧倒される不安がなくなるでしょう。日本語では無意識にやっていることなので、特殊な技術ではありません。
イメージ化には、先入観や思い込みから脱することができる利点もあります。ここで言う先入観とは主に辞書や単語帳の訳語を指しますが、受験生(または日本人)の多くが訳語にとらわれ過ぎて、文脈によって柔軟に語句の意味をイメージすることができなくなっているようです。
複数の予備校が「やや難しい」と評した第4問(心地良い教室空間への改善)の素材文には、単語帳でも高校教科書でもよくお目にかかる以下の単語が登場しています。
stimulation(刺激) / individualization(個別化) / naturalness(自然さ) / ownership(所有権) / flexibility (柔軟性)
素材文を読みながら多くの受験生がカッコにある代表的な訳語を思い浮かべたのでしょうが、これらの訳語を当てはめる方が理解を妨げられるような文章でした。stimulationは「目がイヤがること」、individualizationは「不自由ゼロ」など、単純なイメージに整理すれば効率的に解くことができたはずです。
日本語と英語は文化的背景に加え言語構造が大きく異なるので、ある英単語が持つ意味の広がりを日本語で網羅することには無理があります。さらに、英和辞書で最初にくる訳語と英英辞書の一番目の定義が異なる場合もめずらしくありません(第6問Bの素材文5段落のcreeps byなど)。
この課題を乗り越えるためにも、英語学習のある段階から英英辞書を併用することをお勧めします。もっと理想的な学習法は、低年齢からYOM-TOXのような英語教材に触れて、日本語訳を介さずに物語の展開を通じてことばのイメージを少しずつ構築していくことですね。