ことばの学校ブログ
心をゆさぶる名セリフの数々には、作品を世に送り出した筆者の魂が込められていますね。
ことばの学校 スタッフが選んだ名セリフ、名文をご紹介していきます。
第2回目は、芥川龍之介の「杜子春」からです。
人間に愛想をつかした杜子春は、仙人になりたいと思い、峨眉山(がびさん)に住む鉄冠子という仙人の弟子にしてくれるよう頼みます。
そこで、「鉄冠子からどんな魔性(ましょう)が現れてたぶらかされても、どんなことが起ろうとも、決して声を出すな」といわれます。
なにが襲って来ようともけっして口を開かなかった杜子春ですが、馬に姿を変えた父母が鞭打たれる姿に、ついに耐え切れなくなった彼はその姿に駆け寄り、「母さん」と声を上げてしまいます。
その後の杜子春と仙人の会話がこれ↓
「いくら仙人になれたところが、私はあの地獄の森羅殿の前に、鞭(むち)を受けている父母を見ては、黙っている訳には行きません」
「もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ。――お前はもう仙人になりたいという望(のぞみ)も持っていまい。大金持になることは、元より愛想がつきた筈(はず)だ。ではお前はこれから後、何になったら好(い)いと思うな」
「何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです」
「何になっても、人間らしい、正直な暮らし」
未来に向かって今を生きる子どもたちのみならず、我々大人もつねに心に抱いていたい言葉です。